【311イベント】蘇る伝統の味〜閖上ささ圭のささかまぼこ〜

 

「焼きたて、どうぞ食べてみてください」
ささ圭のおかみである、佐々木靖子さんから差し出された、焼きあがったばかりの笹かまぼこ。まるで焼きたてのパンのように黄金色の焼き目がつき、ぷっくらと厚みがあり、見るからに美味しそう。

「いただきます」

幼いころから慣れ親しみ、普段何気なく食べていた(小学校給食でも出ました)笹かまぼこが、正直こんなに美味しかったかと、衝撃でした。

弾力のあるすり身に、香ばしい外側、噛めば噛むほど口の中に魚介の芳醇なダシの味わいが広がります。

この手焼きの1枚が出来上がるまでには、数々の困難や苦労がありました。

ささ圭さんが名取市閖上に持っていた3つの工場は、津波で跡形もなくなり、社員も3人失いました。
残った建物は増田にある小さな店舗のみ。
震災直後は「もう2度と笹かまを焼くことは無い」と思ったそうです。
「あの時は混とんとした感じでした。」
と靖子さんは振り返ります。

しかし多くの方からの再開を待ち望む声に後押しされ、7月に唯一残った店舗を改装し、小さな工房を再開。手焼きという道を選びました。「究極の選択」だったと靖子さんは言います。

その技を知る人は義父母である80歳を超えた会長夫妻のみ。50年も前の製法だそうで、靖子さんが30年前に徳島から嫁いだ時にはすでに震災前の生産ラインが導入されていました。

 
(石臼)

作り方はまず、魚のすり身と調味料を混ぜ、石臼でじっくり、時間をかけて練り合わせます。この石臼は震災前からあったものの、それまで別の用途で使用されており、基本的な製造段階で使われるのは初めてのことだったそうです。
最初はモーターが焼き切れてしまい、もっと馬力のあるものに変えるなど試行錯誤の繰り返し。震災前はコンピューターで自動的に設定していた調味料の加減は、湿度や温度に左右されることが分かり、失敗作も多かったと靖子さんは言います。

出来上がったすり身はアイスクリームをすくうディッシュでグラムに分けます。
これを丸めて、笹の葉の形に木枠で型どりし、串に刺します。
この日はちょうど靖子さんの義母あつさんがすり身を手で成型していました。
 
(写真中央:手焼きの技を受け継ぐあつさん)

最後に、焼き鳥焼き器に良く似た器具で焼いていきます。
始めた頃は、手袋をはめてもやけどが多かったという従業員が、今は手際よく一枚一枚返しながら、焼き色を付けていきます。
 

なんとか待ち望んでいるお客さんに笹かまを届けたいと、従業員の残業も増やし、夜遅くまでかかって生産していますが、1日に出来る量は3000枚ほど。
震災前は1時間に6000枚を焼いていたそうです。

「1枚でもいいからって、お得意さんがね、買いに来るんですよ。支援を頂いたお礼に送りたいって」
7月の店舗再開時には泣きながら入店するお客さんもいらっしゃったそうです。
昔から地元の人々に愛されてきた笹かまは、閖上アイデンティティそのものなのだと感じました。

最後に今後のことを伺うと、ようやく第四次補正予算が通り、工場再建に向けて一歩前進したとのこと。しかし未だ待機している従業員を呼び戻すためには、長く険しい道のりが続きます。
塩釜や他の地域で、再建するという話もあったそうですが、「名取市で続けること」に意味があると感じたといいます。

震災がきっかけとなり受け継がれた伝統の味わい、3月11日のイベントでも販売されることになりました。

たくさんの人の想いが1枚1枚に詰まった、「閖上の味」を多くの方に食べて欲しいと願っています。

1万のつながりを 〜311から未来へ〜


(ボランティアインフォ・大藤)